📰感想:『アトミック・シンキング: 書いて考える、ノートと思考の整理術』
公開日 2022-08-14
更新日:2022-08-19
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本書の良いと思ったところ
①アトミック・シンキングの手法を使って本を書き上げているところ
本書の最大の特徴は、なんと言っても実際に筆者が提唱する考え方を使って本を書き上げているところです。Zettelkasten、エバーグリーンノート、LYTなどのいわゆるPKMの考えを下敷きにして、アトミック・シンキングという考えを立ち上げ、実際にそれを元にして本を書き上げています。
Zettelkasten、エバーグリーンノート、LYTなどのPKMは有効である方法である一方で、いくつかの問題点が指摘されていると思います。その中でも最も大きな問題点が「結局その手法を使えば文章を書けるの?」という問題だと思います。このときの文章は、本や論文、仕事で求められるアウトプットなどさまざまなものを指します。PKMがその問題を解決しているかはわかりませんが、アトミック・シンキングはその問題の解決策になる考えになっていると思います。
本書は、実際にアトミック・シンキングの考えを使って書き上げた本ですから、結論としては、「できる。だってこの本はそれで書いたのだから」となります。この事実はこうした手法に興味がある人にとって勇気づけられるものだと思います。もちろん筆者的には色々課題は感じているでしょうけど、書籍という形で出すことができたという説得力は何よりも大きいと思います。
そして、それを可能にしたのが、トピックノートの考え方なのではないかと思います。PKMでも似たような考え方はあるのでしょうが、PKMの最も大きな問題を解決するごりゅごさんのすごい発明なのではないかと思いました。トピックノートについては、まだ説明できるほど噛み砕けれてないので、実践していく中で語れるようになったら語りたいと思います。 ②アトミック・シンキングや文章を書くことは技術であることを強調しているところ
2つ目の良いと思ったところは、アトミック・シンキングや文章を書くことは技術であることを強調しているところです。私は文章を書くのが得意ではありません。なんなら苦手です。でも書けるようになりたいと思っています。ごりゅごさんがポッドキャストでも言っていましたが、アトミック・シンキングはそんな人のための考えだと言っています。
正直、我々現代人は忙しいです。ずっと書くことに時間を使っているわけにはいかないかもしれません。本書はそんな現状に対して、「それなら日常のあらゆる場面を練習の機会としてしまえばいいよね」という主張をしています。そして、フリーライティング、日記、読書メモという具体的な3つの方法をあげて、まず書く練習をしましょうという提案をしています。とにかく書け!というのではない、とても現実的なアドバイスであると思います。
本書は、文章を書くことができないのは文章を書いてこなかったからで、文章を書くことは訓練しないと身につかないスキルだと書いています。しかし、それと同時に、練習さえすればきちんと身に付けることができるスキルだとも書いています。
個人的な考えになりますが、スキルは一朝一夕には身につかないというのは良いことだと思います。たくさんの努力が必要ということですが、一方で簡単には真似できないということも意味するからです。文章を書くことは正直しんどいけれど、それを続けた先には、書いてこなかった人とは明確な差が生まれるというのはがんばるモチベーションに繋がるポイントだと思います。 本書で提案されている練習の方法は、発表を必要としていないのもいいと思いました。もちろん、最終的には誰かに読んでもらう文章を書くことを目指しましょうというのが本書の主旨ですが、そのための提案されている練習は実は誰に見せる必要もない練習ばかりです。ネットで発信することに恐怖感を持っていた私としては、すべて自分一人で練習できるのはいいなと思いました。
③実現できるように寄り添ってくれているところ
最後に、3つ目の良いと思ったところは、誰でも実現できるように寄り添ってくれているところです。本書で提案されていることは面倒臭いことかもしれませんが、できないことではないと思います。つまり、読めば誰でもできます。とはいえ、実際にやろうと思うと大変なことも出てきます。
それに対して、本書はところどころ、私たちがつまづきがちなところをあらかじめ予想して、そうならないためのコツを書いてくれています。例えば、フリーライティングが難しいようであれば、目的を持ったフリーライティングから始めればいいよということだったり、日記が続かない理由は、日記にすごいことを書こうとしているからだよということだったり。実践していい感じになるまでは3ヶ月くらいかかったよということも書いてくれています。
先ほど、自分一人で練習できるのがいいと書きましたが、一方で、孤独な練習はなかなか続かないという問題もあると思います。本書はその孤独を埋めてくれるというか、伴走してくれる感じがする本で、そこが良いと思いました。
個人的に面白かったポイント
①第2の脳を記憶ではなく思考の拡張として捉えている点
PKMにおける第2の脳の話は記憶の話になりがちです。例えば、Evernoteを第2の脳にみなして全部突っ込んで入れておきましょうと言うとき、それはEvernoteに全部覚えておいてもらいましょうということを意味していて、それは記憶の役割に注目しています。けれど本書は、第2の脳とは、記憶の保管庫であるストレージではなく、思考の範囲を拡張するメモリであると書いています。この点は、あまり聞いたことがない主張で、第2の脳を第1の脳を補助するものだと捉えて論を進めているのは本書の大きな特徴であり、面白いポイントだと思います。 ②読書メモをなんとなくの理解を文章にする練習として位置付けている点
普段から生じている個人的な悩みとして、読書メモの問題があります。読みっぱなしはよくないからと思い、読書メモはなるべく取るようにしていて、最初は結構うまくいきます。でも大抵途中からうまくいかなくなります。
その原因のひとつが手段と目的の逆転だと思っています。本来、読書メモの目的は、読書の内容を理解することだったり、メモを残しておくことで読み返したときに思い出すこと、あるいは読書メモを取ることによって記憶に刻みつけることだったりします。
このときの読書メモは手段です。しかし、大抵、途中から読書メモを作っときゃいいんでしょという気持ちになったり、作らなきゃと思いすぎて過剰にメモを取りすぎたり、作るのが面倒臭くて本書でいう目コピ状態になってしまったりします。つまり、読書メモを取ること自体が目的化してしまい、結局なんのためにメモを取ってるんだっけ?となることが私の場合よくあります。
この考え方であれば、読書メモが手段になってもいいじゃないかと考えることができます。読書メモを取ることを練習と捉えてしまえばいいというこの主張は、今まで見たことがない新しい主張で非常に面白いと思いました。
本書とは直接関係ない感想
ごりゅごさんは知に誠実な人だよねという話
私はごりゅごさんのナレッジスタックも読んでいるし、ポッドキャストは聴いているしで、正直ファンであると言っていいと思います。そんなファンの私が毎回感心するのが、ごりゅごさんは知に誠実な人だよねということです。
例えば、ブックカタリストのポッドキャストを聴いていてよく思うのは、ごりゅごさんは必ず自分の言葉で言い直すということです。特に、倉下さんの回で顕著なのですが、倉下さんが本の内容について説明する(この説明もわかりやすい)と、ごりゅごさんは多くの場合「あー、〇〇ということか」といった感じで必ず自分の言葉で言い直す印象があります。なんとなくの理解でやめることをせず、ちゃんと自分が理解するようにしている印象があります。
一方で、面白くなかった部分は、ここは面白くなかったとか、正直長かったとか、嘘を言わない印象があります。そんな筆者が書いた本だから、信頼して、よし一度試してみようと思わせる力がある本になっているのだと思います。